企画展示をより楽しく、より深く鑑賞していただくため、本館の広報担当職員が企画展示の担当者から展示の見どころや作り手の気持ちを取材します。

今回は3月10日から開催する企画展示「大ニセモノ博覧会-贋造と模倣の文化史-」の代表者である西谷大教授(研究部考古研究系)にお話をうかがって来ました。

展示案内「大ニセモノ博覧会」

各回リンク
第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回

第5回 ニセモノの創造性

西谷:次はいよいよ人魚のミイラです。そもそも人魚のミイラがどういう形で扱われてきたかというと、一つには中世ごろから人魚のミイラを見ると長生きする、縁起がいい、といった伝承があります。二つ目は見世物小屋ですね。錦絵の中などには見世物小屋のものとしてたくさん出てきます。で、三つ目としては、江戸時代にヨーロッパから来た人たちが「東洋には本当に人魚がいる」と伝えているんです。現在でも大英博物館やオランダのライデン国立民族学博物館に人魚のミイラが所蔵されています。面白いのは、ペリーの航海日誌の中で、和歌山を通過する際に「人魚のミイラをつくっている」という記述があるんです。ですから、どうも和歌山の辺りに人魚のミイラを製作する集団がいたようなのです。


人魚のミイラ(本館蔵)

 人魚作りを生業にしている人々が日本にいたんですね。そこがもう驚きです。

西谷:今回展示する人魚のミイラは、ある業者に依頼して製作していただいたものです。

上半身は猿、下半身は鮭でできています。江戸時代以来の伝統的な製作技法で再現しました。人魚のミイラは本来ニセモノですが、技術はホンモノです。ややっこしいですが。こうして作られた人魚のミイラが昭和までは見世物小屋で見せられていたようです。中でも江戸時代では、人魚の肉を食べると不老長寿になるという話が流行ります。平田篤胤(ひらた あつたね)という国文学者がいるのですが、彼が人魚の肉を食べたということが民俗学者の間で議論になっています。実は当館に平田篤胤関係資料がまとまって所蔵されているのですが、その中に江戸の家族に送ったトイレットペーパーみたいに長い手紙があるんです。


平田篤胤書翰(本館蔵)

 よくそれだけ書きましたね・・・。

西谷:結局6片の骨片にして、水に浸して飲んだようです。今回はこの非常に長い手紙を、一番長い展示ケースを目いっぱい使い、伸ばせるだけ伸ばして展示します。文献って読めない人にとってはつまらないものかも知れませんが、この手紙に関してはあまりの長さに読めない人にも面白いと思います。

 どれだけ長いのかとても興味があります。

西谷:ところで、江戸時代の人魚のミイラには、実は腕がないんです。ところが日本から西洋に輸出されたと思われる人魚にはちゃんと腕があるんです。これは憶測ですが、おそらく西洋のマーメイドの影響を受けたものだと思います。マーメイドは腕があるでしょう?西洋のイメージに合わせるため、人魚に腕が生えてきたんでしょう。人魚も進化しているわけです(笑)。

第6回に続く