企画展示をより楽しく、より深く鑑賞していただくため、本館の広報担当職員が企画展示の担当者から展示の見どころや作り手の気持ちを取材します。

今回は7月15日から開催する企画展示「弥生ってなに?!」の代表者である藤尾慎一郎教授(本館副館長/研究部考古研究系)にお話をうかがって来ました。

展示案内「弥生ってなに?!

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第1回 第2回 第3回

弥生から古墳へ

続いて、第3部「弥生の時間」についてお話を伺いたいと思います。

藤尾:第3部は弥生文化がいつからいつまでという時間の幅を扱ったものです。弥生文化の時間の幅は地域によって異なっていて、九州北部が一番長くて約1,200年間続きました。関西はそれより短くて800年ほど。一番短いのが南関東で弥生文化は550年程度しかありませんでした。ですから、同じ日本列島でも九州北部と南関東で水田稲作を行っている時間は約2倍の開きがあるわけです。当然社会の発展度合いも異なってくると思うのですが、なぜか古墳は同じ時期に登場します。

それはどういうことですか?

藤尾:今まで古墳の成立については、生産力が向上して社会が発達し、階級が生まれて古墳ができるんだ、という説明がなされてきました。では九州北部は水田稲作を始めて古墳ができるまで1,200年もかかったが、南関東では550年でそれができた、という評価が妥当なのかというと、そうではないと思います。おそらく古墳の成立は下部構造(農業や工業)の発達によって上部構造(社会や精神世界)が変化して古墳が誕生したという唯物史観では説明がつかない。もっと宗教的な、イデオロギー的な要素が強く影響して古墳が生まれていくのだと考えています。地域によって異なる弥生の時間は、このように古墳出現の新しい解釈にもつながっていきます。

その他に第3部では最新版の較正曲線(※注1)を展示しています。これは紀元前1,100年から紀元後400年までの約1,500年間の日本版の較正曲線で、本邦初公開になります。前回の展示「弥生はいつから!?」では紀元前840年以降だったのですが、今回はさらに前後を追加しています。

(※注1:較正とはキャリブレーション〔calibration〕の訳語で、比較して正すという意味。炭素14年代を暦上の年代に変換するため、年輪年代法などによって実年代のわかった試料の炭素14年代が、較正曲線としてまとめられている)

次は第4部「弥生のひろがり」ですね。

藤尾:第3部が弥生文化の時間的な幅をみていったのに対し、第4部では弥生文化の地域的な広がりに注目しています。ここのコーナーでは借用資料の実物も多く展示しています。経路的には九州北部から始まり、最後に東北で終わるのですが、ちょっと変わっているのが中部なんです。

どういった点が中部は変わっているんですか?

藤尾:今回中部だけは水田稲作を行っていた頃を扱っていないんです。中部は水田稲作が始まる直前の、畑作を行っていたと考えられている500年間を扱っています。道具を見ても打製石斧・石棒など縄文と全然変わりませんし、土偶も見つかっていますので、土偶を使った縄文の祭祀が行われていたと考えられます。ただ縄文文化とは何が違うかと言うと、土器の表面にアワとかキビのスタンプ痕が多数着いているんです。つまり水田稲作ではなく、畑作、いわゆる陸稲(おかぼ)栽培やアワ・キビの畑作が行われていたと考えられています。ここが違う点です。先ほども申し上げましたが、中部地方について東大の設楽先生は前6世紀以降は弥生文化と考えていらっしゃいますが、私は縄文的要素が強くまだ弥生になりきれていなかったと考えています。

第4部では各地域の資料が一堂に会する形で展示されるので、地域ごとの違いがよく分かるようになっていますね。

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藤尾:第4部を出ると復元した弥生時代の等身大女性像「弥生ちゃん」(仮)を展示しています。

弥生ちゃん(仮)

これは山口県土井ヶ浜遺跡で発見された頭がい骨から複顔し、四肢骨の特徴から全身像を推定して復元しています。この頭がい骨は総合展示第1展示室に展示してありますので、興味のある方はそちらもご覧ください。さらにここでは弥生ちゃんを復元する過程を撮影した映像も見ることができます。

弥生ちゃんが着ている衣装の素材は絹ですか?

藤尾:そうです。今の蚕は家畜化されたものですが、当時の養蚕はおそらく野生の蚕を飼っていたのだろうと考えられています。衣服の染料も茜(あかね)や貝紫(かいむらさき)を使用し、いずれも遺跡からの出土品をもとに自然のものを使って染めています。

弥生ちゃんの隣には、こうした弥生人の衣装を実際に着ることができる体験コーナーがあります。着物だけではなくて、首飾りといったアクセサリーも再現したものをご用意しています。女性限定ではありますが、ぜひ衣装を身につけて弥生人のファッションを楽しんでください。ご自分のカメラや携帯で写真撮影もできますよ。

それは楽しそうですね。

衣装体験コーナーの様子

藤尾:エピローグでは最初にお話した私と設楽先生の論争をパネルで展示してありますが、専門的な話になりますのでさっと読み飛ばしていただいて結構ですよ。

(笑)。ここまでが企画展示室Aになりますが、企画展示室Bはどういった展示があるのでしょうか?

藤尾:企画展示室Bでは「縄文の美・弥生の美」と題して、当館が所蔵している縄文と弥生の優品を集めてご覧いただこうというコーナーです。縄文はいくつか複製もありますが、基本的には実物資料を展示いたします。縄文はヒスイなどの素材の美しさ、土器や土偶の造形の美しさが見どころでしょうか。弥生は青銅器が中心になります。現在は青サビがふいていますが、弥生人が見ていたのは金ぴかに光る青銅器でした。ですから正確に言うと展示品は「弥生時代の遺物の美」になるわけですが、そこから「弥生人の美」を想像しながらご鑑賞いただければと思います。関東の方は縄文の方がお好きかもしれませんが。

最後に、今回の展示を作り上げて感じたことをお聞きしてもよろしいでしょうか。

青森 槻の木 ヒスイ製勾玉・丸玉一括(本館蔵)

弥生人が見た前1世紀の銅矛 復原複製(本館蔵)

銅鐸の文様を写し取る体験プログラム

藤尾:やはり自分の考えを展示という形で示すのは難しいとあらためて感じました。実際に資料で示しながら説明するというのは大変です。

今回の展示では、この他にもスマートフォンを利用した展示解説や、誰でも参加できるクイズ、銅鐸・鏡の文様を写し取る体験プログラムも展示場にご用意しています。

学問的な難しい内容ばかりでなく、先ほどの弥生人の衣装のような体験コーナーも充実していますので、これまで歴史学や考古学に関心のなかった方や、親子連れの方にもぜひ足を運んでいただければと思います。

本日は貴重なお話をたくさん聞くことができました。ありがとうございました。

 

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