企画展示「異界万華鏡—あの世・妖怪・占い—」

描かれた妖怪

「武太夫物語」

本物語は『稲生物怪録』の一異本で、近世後期に流行した怪談物の実録体小説の一種であり、伝本は多く、近世から広く読まれていた。内容は安芸国(現広島県)の若侍武太夫が力自慢の友人とある晩、百物語をしたところ、7月1日から毎晩、さまざまな妖怪が現れるようになってしまう。ところが武太夫は怖じ恐れることなく一と月のあいだ淡々と対応する。結果、妖怪どもは一同に退散するという内容。

抜け首(武太夫物語)
武太夫の屋敷に妖怪が出るようになってから三日目に現れたのが、この抜け首である。これはいわゆる轆轤首(ろくろくび)のことで、多くは女の姿をしている。古く中国の説話に見られ、かの地の民間伝承が日本に伝わったともいわれる。本絵巻の場合は珍しいことに、女の首が壁にあいた鼠の巣穴から出ていることである。さらには首はさかさまになって、足の代わりに髪の毛を突き立てて歩くという凝った趣向で描かれている。

「百鬼徒然袋」

同名の作品は『画図百鬼夜行』などの妖怪絵で知られる鳥山石燕が描いているが、本作は別物である。しかし非常によい手で描かれていて、作者の銘が記されていない点が惜しまれる。全20図からなる画帖。


「化物絵巻」

本絵巻は外題・内題ともについていないため、正式名称は未だわからないが、類似作品は数点確認されている。いずれも近世後期の作品。本絵巻に収めるところの化物は全24種に及び、その中には鳥山石燕の『画図百鬼夜行』や『続百鬼』に近似するキャラクターも散見されるが、陰法師・黒煙・蒙悶祖父・大化など、他には見出しがたい珍しいものも見られる。

ろくろ首(化物絵巻)
轆轤首(ろくろくび)は首が自由自在に伸び縮みする妖怪のことで、おもに女の姿をしている。轆轤とは物を引き寄せたり、吊るしたりするのに使う滑車のことで、この妖怪の首を形容しているわけである。またこの妖怪は好んで行灯の油を舐めるという。ここに描かれたものは典型的なろくろ首と見てよい。華やかな装束にお歯黒をした姿は武家の奥方を表しているようである。
精霊(しょうりょう)(化物絵巻)
「しょうりょう」あるいは「せいれい」とは、本来死者の霊魂やものの精を指す語である。この図のように化物の一種に加えられているところからすると、何ものかの精と見られよう。幸いほかの化物づくしの絵巻に全く同じ老人が描かれており、その名を「夢の精霊(せいれい)」という。また「夢」ではなく「草」とするものもあるようである。いずれにしても夢見や霊夢にかかわる存在であろう。
右も左も(どうもこうも)(右)・みの毛よだつ(中)・ハヂカキ(左)(化物絵巻)
3種いずれもそれほど著名な化物とは言えないが、人間の動作を物体化したユーモアのある存在といえよう。ドウモコウモは喜多川信節の『喜遊笑覧』に名が見える。