開催概要
サザンカは日本を原産とし、ツバキとともに冬枯れの淋しい庭をいろどる数少ない花木の代表です。サザンカの自生種は、沖縄の西表島から九州とその周辺諸島および四国の西南部などに分布していますが、それらの自生種を素材として生みだされたさまざまな品種は、園芸文化の「冬の華」として各地に伝播し、いく度かの盛衰をくりかえしながら今日に受けつがれています。
野生のサザンカは白い花を咲かせますが、園芸品種の花色は白のほか、紅、桃、ぼかしなど濃淡さまざまで、花のかたちは一重、八重、千重、獅子咲きなど、大きさも直径10センチメートルを越える大輪から小さなものまで、多彩です。『花壇地錦抄』(1695)巻之二には、「茶山花のるひ」として、「三段花」などいくつかの品種が記載されています。現在では約300の品種がしられており、また、最近では古く海外に渡ったサザンカが改良された後、里帰りしている例もみられます。 このように、今日みられる品種は、近世から現代にいたるまでのサザンカと人のかかわりのさまざまな歴史を含んでいます。しかしながら、残念なことに、そうしたサザンカの多彩な姿は、あまり広くしられてはいません。
今回の展示では、生きたサザンカを通して、その多彩さを多くの方々にしっていただき、人とサザンカのかかわりの歴史を見直したく考えています。
会場 | 国立歴史民俗博物館 くらしの植物苑 |
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料金 | 通常料金に含む |
開苑時間 | 9時30分~16時30分 (入苑は16時00分まで) |
休苑日 | 毎週月曜日(ただし月曜が祝日の場合は翌日休苑)および12月27日〜1月4日 |
主催 | 国立歴史民俗博物館 |
展示構成
東京農工大の箱田直紀教授をはじめとする各方の協力のもとに、大輪や抱え咲き、平開咲きなど花形の変化にとんだ「江戸サザンカ」を含む100品種あまりのサザンカを集めて、展示します。
関連の催し
くらしの植物苑観察会
「冬の華・サザンカ」
日時 | 11月24日(土)午後1時30分〜 |
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会場 | くらしの植物苑 東屋 |
講師 | 篠原 徹(歴博) |
備考 | 事前申し込み不要、要入苑料 |
「冬の味覚」
日時 | 12月22日(土)午後1時30分〜 |
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会場 | くらしの植物苑 東屋 |
講師 | 辻 誠一郎(歴博) |
備考 | 事前申し込み不要、要入苑料 |
サザンカに関する展示解説
毎週土曜日 午後1時30分〜
(ただし、11月24日・12月22日は、上記の観察会にふりかえ)
園芸相談
週水曜日 午前10時〜午後3時
企画展の様子
「冬の華・サザンカ」展オープン
11月13日(火)、1月14日(月)までの約2ヶ月間、日本を原産とするサザンカの品種100種類あまりを展示します。前日12日には内覧会が行われ、展示にあわせて開花調整してきたサザンカの花が咲きそろうなか、宮地館長の挨拶に続き、篠原展示プロジェクト委員代表の挨拶、東京農工大学の箱田直紀教授の展示解説がありました。報道関係者も集まり、足元の悪いなか、にぎやかなオープンとなりました。
サザンカについて
サザンカは日本西南部以南に自生しています。ツバキによく似ていますが、花びらがばらばらに散ることや雄しべが合着しないこと、香ることで区別できます。ツバキと同じように種子から油をとり、葉を同じ仲間である茶の代品として利用した記録が残っています。 現在に至るまでに、1.元禄期中心(1600年代初頭〜1750年代)、2.文化・文政期中心(1800年代〜1850年代)、3.明治中期から昭和初期(1880年代〜1940年代)、4.第二次大戦後(1950年以降)と4回の発達期があったことがわかっています。また江戸サザンカや肥後サザンカなどと呼ばれるものがあるように、同好者によって改良されてきた歴史を併せもつ古典園芸植物です。 サザンカの品種は、咲く時期によってサザンカ群、カンツバキ群、ハルサザンカ群とわけることができ、このほか、葉に光沢のないタゴトノツキ群がありますが、これは中国原産のユチャの系統と考えられています。
サザンカ群
10月から12月にかけて、一重か二重の花を咲かせます。大輪花も多く、また、「江戸サザンカ」の代表的なものも、この品種群のなかまです。雄ずいは花弁に変化することはありません。生態、形態的には、サザンカの自生種にもっとも近いグループで、樹形も自生種に似て、多くは立性です。
カンツバキ群
11月から3月にかけての真冬に、八重か獅子咲の華やかな花を咲かせます。雄ずいの一部または多くが花弁に変化することがあります。カンツバキという名前からツバキを連想しますが、花びらも雄ずいもばらばらになって散り、サザンカの特徴をあらわしています。樹形は立ち上がらずに横張りのものが多く、枝葉が密生して、仕立てやすいものが多いようです。中部地方に古木が多い「獅子頭」(関東では「寒椿」と呼ばれます。)がもとになって作出されました。
ハルサザンカ群
開花期が遅く、12月から4月にかけて、一重や八重、千重咲きまでの多様な花を咲かせます。サザンカとツバキ(主としてヤブツバキとその園芸品種)の自然交配で生まれた種間雑種またはその後代と考えられています。ヤブツバキに近い特徴を示し、多くは雄ずいと花びらが互いについて散りますが、一部のものはばらばらに散るサザンカの特徴をあらわしています。また花色に縦絞りという特徴をもっているものがありますが、これはツバキの特徴でサザンカにはないものです。香りはあるものからほとんどないものまで様々で、樹形は立性から横張り性まで変異があります。一部をのぞいて実はほとんどつきません。現在約50品種が現存しています。
タゴトノツキ群
園芸品種は少なく、古くからあるものは「田毎の月」ひとつだけです。葉はひとまわり大きくて光沢がなく、11月〜12月ごろに白色で一重の小輪花をつけ、よく結実します。中国大陸に広く分布し、種子から油を搾るために栽培されるユチャ(油茶)の系統をひくと考えられています。日本では大正のころにはその油や種子が入っていたことが知られており、昭和初期からサザンカとして扱われてきました。サザンカやカンツバキ群の品種と容易に交雑するため、多数の実生個体が存在しますが、いずれも花びらが細く小輪なのでほとんど注目されず、品種名がつけられたのは「銀宝」だけです。
外国にわたったサザンカ
サザンカは、1869年以降フランスやイギリスへ渡ったとされています。しかし、気候の違いからほとんど普及しませんでした。しかし1940年ごろからアメリカにおいて改良や増殖がはじまり、その後のツバキブーム拡大とともに、気候の似ているオーストラリアやニュージーランドにおいてさかんに栽培されるようになりました。はじめは一重か半八重の品種が大部分でしたが、1950年ごろからは日本から育種親として渡ったカンツバキ群「獅子頭」や「昭和の栄」などがさかんに用いられ、その結果、わが国にはみられないような重弁や大輪の品種が生み出されました。
サザンカの現存する古木
園芸品種が記録に残る以前、あるいは少なくとも初期のものと考えられるサザンカの古木を各地で見ることができます。しかし自生範囲が限られていることや、油料植物としてはツバキ油の一部を補う程度であったため、ヤブツバキの古木に比べると数少なく樹齢200年を超えるものは表のとおりです。本州中部以南では自生地から離れた広い範囲で存在していますが、これらの大部分は庭園内に植栽されたもので、本来の自生種にはみられない花を咲かせています。
表中12本はサザンカとツバキの雑種またはその後代と考えられるハルサザンカで、長崎県の樹齢400年前後と推定される「凱旋(がいせん)」は、ツバキとサザンカの雑種第1代と考えられています。最近の調査研究によると、この「凱旋」は広い範囲に古木があることがわかり、園芸品種が発達した初期、「凱旋型ハルサザンカ」が特別に珍重され、増殖されて各地で栽培されていたらしいと考えることができます。
また、カンツバキの基本品種は「獅子頭」で、三重県に樹齢200年前後と推定される古木があります。しかし1930年代までは関東へは伝わらず、その後代から華やかな重弁の品種が多数現れるのは主に1950年以降になってからです。
刊行物のご案内
冬の華・サザンカ 図録 |
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