「カヤの木」から思うこと~本館展示室と植物苑を結んで~

  • 執筆者:仙洞田博(くらしの植物苑ボランティア)
  • 公開日:2005年9月24日

当苑にカヤの木は4本あります。いずれも高さ5~6mの若い木です。私はこれらの木の前に立つと、幼かった時、縁日で母親に買ってもらった「カヤあめ(カヤの実を飴で板状に固め、竹の皮に包んであった)」の実の渋さから飴だけを舐め、実はそっと捨てた事を思い出します。また、少年時代、戦災で疎開しましたが、その村の氏神様の境内で拾ったカヤの実を、空腹に負けて生のままかじったことがありました。その時のツーンとくる仮種皮の匂いや、種子の舌にざらつく‘えぐい’味がよみがえります。それは『かやの木山(北原白秋詩・山田耕筰曲)』のような甘美な世界へとは広がりません。

本館第1展示室の「列島文化の成立 アジアの中の縄文文化」のところに見事な丸木舟の遺物があります(独木舟:前二千年紀 千葉県八日市場市米倉大鏡 慶応大学文学部考古学研究室蔵)。説明文から推測すると材質はカヤのようです。その太さ、真っ直ぐさから推し量って、この種としては大変な樹齢を重ねた見事な木だったと想像されます。そして、直径1mを超えるカヤの木が生い茂っていた縄文時代の房総の森林や、丸木舟を巧みに操っていた人びとの生活が思い浮かんできます。

ちなみに、国の天然記念物として指定されているカヤの巨樹は「与野の大カヤ(さいたま市)」など4本あります。いずれも樹齢は600~1000年を数えます。

カヤはイチイ科の常緑高木です。雄の木と雌の木があります。(本苑は雌雄各2本)。花は5月頃咲きます。実は翌年の9月頃に熟し、緑色をした仮種皮をつけたまま落ちます。葉は枝の左右に2列羽状につきます。握ると、堅く尖った葉先から痛みを感じます。若い枝は緑色をしていますが、3年目から茶色になります。

用途では材質が緻密で耐久性が高く、淡黄色で美しいことから、風呂桶や建築・器具・造船材、とくに碁盤や将棋盤の最高級品として珍重されています。丸木舟として利用してきた縄文人のセンスと知恵を改めて感じます。また、種子は搾って灯油や食油、炒って食べてきました。現在残っている巨樹の大半が雌の木であることは、その有用性と関係があるように思います。さらに、葉や木屑は燃やして「蚊遣り」に、変わった利用としては、貴重な種子籾をネズミの被害から守るための「種子籾囲い」の脚柱に、枝を巻きつける用途もありました。

私たちの祖先は、植物の恵を命の源として大事に活用してきました。地球環境の悪化における環境汚染対策が緊急の課題となっている今こそ、私達は先人の残してくれた知恵をもっと掘り起こし、「生きる力」として、しっかりと受け継いでいきたいものです。

カヤ(イチイ科カヤ属) の葉と果実 
Torreya nucifera

参考文献

  • 『樹に咲く花』山渓ハンディ図鑑 山と渓谷社 2001
  • 木村陽二郎監修『図説 花と樹の事典』柏書房2005
  • 渡辺典博著『巨樹・巨木 -日本全国674本-』山と渓谷社1999 
  • 福田アジオほか編『日本民俗大辞典』吉川弘文館 2000