くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日
13:30に苑内のあずまやに集合
15:00頃までの予定、苑内の季節の植物も観察

細い広葉樹を丸太で使う、太い針葉樹を製材して使う -環境社会学としての遺跡研究に向けて-

  • 執筆者:山田昌久・東京都立大学
  • 公開日:2005年1月

木は人類が利用してきた資源のなかで、他の物資とは違う性質があります。その特徴とは、人類のライフサイクルと同じような速 度で成長するということです。子供の頃に芽吹いたスギの木は、大人になった時には、20mほどの高さまで成長し、幹の太さも径30cmほどにはなっている でしょう。また、木は独特の形や材質を持っています。そこで、人類が木を利用しようと考えると、木の種類ごとに有効性が異なることになります。現在では、 木材を粉にして再加工し必要な形状に加工する技術があります。少し前までは、薄板を合わせる合板技術などは日本が世界に誇ったものでした。また、仕口や継 ぎ手という木材をつなぎ合わせることで、自然界には無い形をつくることは、どうやら縄文時代から行われていたようですが、手に入る木材の大きさや形は、資 源としての要件を規定していました。分かりやすく言うと、数年しか生育していないヒノキでは、幹が細すぎて家を建てることはできません。

石・レンガ・コンクリートなどは、少量に分けて持ち込んでも、集めれば大きな柱や壁を作ることができます。しかし、木材資源は長い間、必要な大きさや形 を自然界に求めて(意図的に生育を待って)手に入れるものだったのです。また、石やレンガの建物であれば、人類のライフサイクルを越えた時間、その形を残 します。中世ヨーロッパの都市建築が現存したり、ギリシャ・ローマの石造建築やインダス文明のレンガ建築が曲がりなりにも形を保っていたりするのは、木造 建物を基本とした日本の建築とは異なる特徴といえるでしょう。家を引き継ぐ生き方と、家を建て替えながら命を繋ぐ生き方とでは、人類の家系観や社会観そし て自然観に違いが生まれる可能性があります。日本の「木の文化」には、人類の感性に関わるこんな問題も潜んでいそうです。

木のこのような特質は、人口集中の基盤作りにも大きな制約を与えます。江戸の百万都市に対応する木材量は、日本列島の隅々まで植林をして供給する必要が ありました。火災によって、あるいは耐用年数の経過によって幾度も建て替えを行った都市では、材成長の時間を数十年確保して、建築材として使用できる大き さにするには、森林面積を日本中に求め順次場所を替えながら伐採する必要があったのです。現代では熱帯雨林やカナダ・シベリアの木材まで手に入れなけれ ば、3千万首都圏は維持できません。

藤原京・平城京の建設も、奈良盆地からの木材では対応できませんでした。水分調整を行った木材を滋賀県などの遠隔地から運び込んで作ったこの古代都市を 可能にしたのは、鉄の木工具と材移送の技術、そしてヒノキなどの針葉樹大径材を製材加工する材利用システムの採用です。一部の研究者が縄文都市と考える三 内丸山遺跡の時代、人類はまだクリの木を含水率調整せずに建築材としていました。乾くと割れたり捩れたりしてしまうクリの木は、集落の近隣から入手する必 要がありました。また、製材技術を十分に持っていなかった縄文時代の人類には、太くなりすぎた木は建築材としては使いにくいものでした。逆にいうと30㎝ 以下の、十年から二十年くらいたった太さの木を、絶えず使い続ける仕組みを確保しないと、千年以上も集落施設を更新し続けることはできなかったのです。縄 文集落の継続期間の長いという事実の背景には、集落施設材の調達の仕組みに規定され自由な移動ができなかったことも在ったのでしょう。こうした小径材を利 用する方法には、もう1つ芯材・辺材という材質の議論も関わります。単純ではありませんが、基本的には辺材の方が弱いし劣化も速いと言って良いでしょう。

日本で発見される竪穴住居は、頻繁な作り変えをしていた建築物です。家族・家系の仕組みや、木造建造物の独自な用材確保システムを考えると、広葉樹・芯 持ち材・近距離・辺材部分の多い小径材、を使う石器加工の社会と、針葉樹・芯去り製材・遠距離・芯材部分を主とした大径材、を使う鉄器加工の社会の違いが 見えてきます。たとえば、芯材形成の遅いマツの仲間は縄文時代には建築材には使用されていません。大径材の芯材部の特質がまだ活用できなかったのでしょ う。そのように考えると、三内丸山集落が施設数を急速に増やした直後に消えるのは、クリ材調達の仕組みを保持することが出来なかったからなのではないで しょうか。このように人口集中や権力集中の基盤研究には、従来歴史学者が関心を持ってきた、食料・武力・政治力以外の尺度でも検証する必要があるのです。

ただ、大径材を使うということは、居住地近隣の空間や人類の生存する時間を越えた資源を求めることでもあります。時間や空間のバランスを図らない地球資 源「消費型」用材法の始まりであったと言えます。その点、細い芯持ちクリ材を使う用材法は、今流行の「循環型」と位置づけることができます。「環境社会 学」からの遺跡研究も、考古学者の新たな仕事に加わることになりました。