くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日(4月はみどりの日)
13:30に苑内のあずまやに集合
15:30頃までの予定、苑内の季節の植物も観察

  • 9月25日 第78回観察会「植物採集文化を考える」 山本直人(名古屋大)
  • 10月23日 第79回観察会「菊と紋様」 日高薫(歴博)
  • 11月27日 第80回観察会「酒と民俗」 青木隆浩(歴博)

植物採集文化を考える

  • 執筆者:山本 直人
  • 公開日:2004年9月22日

野生の堅果類や根茎類などの植物質食料は、縄文時代の人びとにとって大切な食料であり、灌漑水田稲作以前の縄文時代におい ては、植物質食料の採集活動は狩猟や漁労とならんで重要な生業でした。植物採集活動は大きくは二つにわけることができます。一つはドングリ類・トチノキ・ クリ・クルミなどの堅果類を採集して食料にする活動で、もう一つはクズ・ワラビ・ウバユリ・ヤマノイモなど根茎類を採集して食料にする活動です。このほか にも、春には山菜とりが、秋にはキノコとりがおこなわれたと考えられます。ドングリ類やクリなどの採集は、狩猟や漁労にくらべてそれほど危険ではないの で、貝の採集とともに女性や子供の仕事だったのかもしれません。
最初に堅果類の食料化についてですが、縄文時代の低湿地の遺跡からは植物性の遺物が出土することが多く、そうした植物性の遺物にまざって上記のような堅 果類も出土します。クリやクルミはそのままたべることはできますが、ドングリ類は種類によってはアクがあって、アク抜き処理をしないとたべることができな いものもあります。トチノキやドングリ類のアク抜き技術は、1970年代の経済高度成長期まで列島の山間部で伝承されていました。そうしたアク抜き技術の 民俗学的研究や遺跡から出土する堅果類の植物遺体の考古学的研究をもとに、トチノキやドングリ類を食料化する研究がすすめられてきました。
一方、根茎類はその性質からか遺跡から出土することはほとんど皆無で、ユリ科ネギ属の炭化した球根類がわずかに発見されている程度です。それで、根茎類 を食料にする民俗学的な知識などから、それらも食料化されたという想定のもとで研究がすすめられています。植物遺体の出土例の不足をおぎなうために、わず かに残存している民俗事例の研究もおこなわれ、クズやワラビからデンプンをとりだす工程と使用される道具の関係もあきらかにされています。そうした民俗モ デルと考古資料の比較から、根茎類からデンプンをとりだして食料化することは、縄文前期までさかのぼると推定されています。
縄文時代では栽培や農耕の存在も認められてきていますが、生業全体のなかでの比重はそれほど大きくなく、植物食の中心は植物採集活動であったと考えられ ます。その意味で、日本列島で華ひらいた縄文文化は、植物採集文化の側面をもっているといえるでしょう。 

アベマキ