くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日(4月はみどりの日)
13:30に苑内のあずまやに集合
15:30頃までの予定、苑内の季節の植物も観察

  • 6月26日 第75回観察会「夏至と半夏生」 辻誠一郎(東大)
  • 7月24日 第76回観察会「メロンの世界-日本のメロンは弥生から」 藤下典之(前大阪府立大学) 
    *7・8月は本館・講堂で行います。13:30~15:00
  • 8月28日 第77回観察会「平成のアサガオ・ブーム」 仁田坂英二(九大)

夏至(げし)と半夏生(はんげしょう)

  • 執筆者:辻 誠一郎
  • 公開日:2004年6月16日

旧暦5月は五月雨(さみだれ)月。今の暦では6月17日から7月16日にあたる。北半球の中・高緯度地帯では、太陽光が もっとも強くなるときで、夏の期間が短い高緯度地帯ではとくに、日光浴を惜しまない季節である。ところが日本では事情がずい分違う。西側から移動してくる 前線に太平洋の湿気が付加して重い雨雲が停滞し、長雨・大雨を北海道を除く各地にもたらす。梅雨である。五月雨月は梅雨にすっぽり包み込まれてしまうので ある。
五月雨月に入って間もない6月21日が夏至。太陽が北緯23度27分の北回帰線上に来る日で、一年で日照時間がもっとも長くなる。本州以南では秋霖 (しゅうりん)とならんで雨が多い季節の真最中。けれども、植物たちにとっては恵みの季節なのである。

早苗とる手もとや昔しのぶ摺り(ずり)

元禄2年の、今の暦の5月16日に江戸を立った芭蕉たちは、白河関を経て信夫(しのぶ)の里に6月中旬にたどり着いた。そのときの句に田植えが描かれる わけだから,当時の田植えは今と比べてずい分遅かった。私の郷里は滋賀県の草津。小学生の頃までは、5月の終わり頃が麦畑から稲田への変わり目だった。畑 が見る見る田に変わるのである。6月5日は二十四節気の一つ、芒種(ぼうしゅ)。麦を収穫したあと、稲を植える頃を意味している。早生稲が普及した今日、 芒種という大切な節目を知る人はほとんどいなくなった。

江戸を出てから日本海側の酒田にたどり着いた7月29日まで、芭蕉たちはずっと雨をともなった旅だったようである。俳人である芭蕉が梅雨の季節であるこ とを知らなかったはずはないから、雨にたたられたというよりは、旅上に梅雨を実感しながらの、自然をすなおに受けとめる旅だったにちがいない。

7月1日から6日は、半夏生の候である。ハンゲショウという中茎の草本が奇妙な姿を見せる。たくさんの小さな花が穂のように集まった花房の下に、葉緑素 がすっかり抜けた白色の葉が際立つのである。これが梅雨にぬれると遠くからでもくっきり見え、夕闇せまれば生めかしく無気味である。

ハンゲショウはドクダミと近縁の植物。この仲間は世界で東アジアと北米にしか今はない珍種なのである。2百万年も前までは、北半球にありふれていたと私 は推測している。それが、地球の寒冷化にともなって南下・縮小を余儀なくされ、多雨で温暖な地域にだけ、かろうじて生き残ったのである。

半夏生までに田植えは終わっていなければならなかった。梅雨がおとずれる多雨な日本に、田植えとハンゲショウは今も生きつづけている。 

ハンゲショウ