くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日(4月はみどりの日)
13:30に苑内のあずまやに集合
15:30頃までの予定、苑内の季節の植物も観察

  • 4月29日 第73回観察会「日本の花文化」 新谷尚紀(歴博)
    *みどりの日は入苑が無料 
  • 5月22日 第74回観察会「漆」 永嶋正春(歴博) 
  • 6月26日 第75回観察会「夏至と半夏生」 辻誠一郎(東大)

日本の花文化 -花の日本史-

  • 執筆者:新谷 尚紀
  • 公開日:2004年4月26日

花が好き、という人は多い。では、人間にとって花とはどんな意味があるのでしょうか。古代の神話が教えてくれるのは、花 は生命の象徴だということです。古事記や日本書紀によれば、永遠の生命を保つべき人間が、死すべき存在となってしまったのは、主人公が自分の結婚相手を選 ぶときに、醜悪な姉の石長比売(いわながひめ)を嫌がって、美麗な妹の木花之佐久夜比売(このはなさくやひめ)の方を選んだからだといいます。花と死とい えば、考古学の花粉分析によっても墓に花を供えた例が数多く知られています。長い時代を経た現代社会でも、洋の東西を問わず葬儀や墓地では花が重要な役割 をはたしています。

花と日本文化といえば、やはり第一は「万葉集の梅」と「古今集の桜」という好対照でしょう。桜は落葉広葉樹林の高木が葉を繁らせる前に一足先に花をつけ ることによって実をつけて生き残る戦略を身につけた賢い樹木です。古代の都城建設と山林開発による高木の伐採は、桜にとって有利な環境を作り出しました。 「春雨のしくしく降るに高円(たかまど)の山の桜はいかにかあるらむ」。都城近郊の山にはこうして山桜が爛漫でした。さらにミツバチの媒介による品種間の 交雑が進み多様な変異種も生まれました。「いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな」。

花といえば桜、その桜の花は次第に、日本人の精神論へと刺激を与えました。「あくがるる心はさてもやまざくら散りなむのちや身にかへるべき」。遁世の歌 人、西行が桜の花に向けて歌ったのは、このようなあくがれいずる心身離脱の恍惚感でした。その後、世阿弥は謡曲「西行桜」で夢幻霊の世界をみごとに描き出 します。江戸の武士の時代には、『仮名手本忠臣蔵』の名台詞、「花は桜木 人は武士」が大ヒットしました。本居宣長の、「敷島の大和心を人問はば朝日にに おう山桜花」は、彼の理想とした清く明く直き心を詠じたものでした。それらが、近代日本の軍国主義と靖国の思想へとスパイラルしていったことについては、 日本歴史の潮流の中に再監査する必要があります。

ところで、花と人間のつきあいでは、東西文化の差異にも興味深いものがあります。生け花を華道として芸術にまで磨き上げた日本文化。一方、花束を女性に 捧げて誠実と愛情を伝えてきた西欧文化。それら多様な花文化について国際交流が進む現代社会にあっては、たがいの歴史と文化を知り合うことが大切でしょ う。桜花に限らず、梅花、躑躅(つつじ)、卯の花、紫陽花、朝顔、菊花、彼岸花など、四季の豊かな日本の花文化には興味尽きない深さがあります。ぜひ、そ れらを調べてみましょう。