くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日(4月はみどりの日)
13:30に苑内のあずまやに集合
15:00頃までの予定、苑内の季節の植物も観察

  • 9月27日 第66回観察会「ドングリの世界」 上野 祥史(歴博)
  • 10月21日(火)~11月9日(日) 特別企画『季節の伝統植物』-「伝統の古典菊」
  • 10月25日 第67回観察会「菊とサザンカ」 箱田 直紀(恵泉女学園大学)
  • 11月18日(火)~12月26日(金) 特別企画『季節の伝統植物』-「冬の華・サザンカ」
  • 11月22日 第68回観察会「油の採れる植物」 辻 誠一郎(歴博)

ドングリ-食料として重要だったブナ科の堅果

  • 執筆者:辻 誠一郎
  • 公開日:2003年9月27日

日本列島は南西から北東の方向へ長く延びていて、あたかもタンポポやレンゲを連ねて作った花綵(はなづな、かさい)に似 ているので、花綵列島と呼ばれたりします。その花綵を彩る森林植物の代表は、北の方ではミズナラやブナといった落葉広葉樹、南の方ではコナラやクヌギと いった落葉広葉樹と、カシの仲間やシイの仲間といった常緑広葉樹です。北から南まで、人里でよく見かけるクリも、代表の一つに入れるべきものでしょう。こ れらはみんな、ブナ科という大きな植物のグループに属しているのです。つまり、日本列島の北から南まで、ブナ科に属している植物たちが森林をかたちづくっ ているといっても過言ではないのです。

ブナ科に属している植物たちには、他の植物グループには見られない面白い特徴があります。それは、弾丸のような独特の形をしていて、堅い皮に包まれた堅 果という果実をつけます。それが殻斗と呼ばれる帽子のようなものに抱かれているのです。堅果は、古来ドングリと呼ばれてきました。何とも親しみのある名前 ではありませんか。ドングリは、褐色のつやつやした堅い皮をもっていて、その中は渋皮が全面をおおっています。さらに渋皮をはいでみると、中からピーナッ ツのような白い実が現れます。この渋皮と白い実が種子すなわちタネなのです。堅い殻はというと、種子を保護している果実の皮すなわち果皮なのです。種子が 白いのは、きれいなデンプンのかたまりだからです。

日本列島のどこででも取れるドングリは、食料としてたいへん重要なものでした。縄文時代の遺跡から見つかるたくさんのドングリの皮(果皮)の廃棄物は、 そのことをよく物語っています。また、遺跡の周辺の水はけの悪いところには、ドングリがぎっしり詰まった穴が発見されることもしばしばです。ドングリ・ ピットと呼ばれたりします。ドングリを貯蔵していたという人や、水であく抜きをしたという人、さらにあく抜きをするために地中で泥による発酵をさせたとい う人もいます。いずれにしても、ドングリを食料としていたことは間違いありません。

縄文時代をとおして見ると、クリとその他のドングリが見つかる遺跡はたいへん多いのです。日本列島のどこにでもドングリをつけるブナ科の植物が生育して いたことは、ここで育まれた生活文化の歴史や他の文化にはない特異性を考えるときに重要なことがわかります。クリやシイの仲間はそのまま煮ても焼いてもお いしく食べられますが、コナラやミズナラ、カシの仲間の多くはあく抜きをしなくては食べられません。あく抜きといった独特の技術も、ドングリをもつ風土か ら誕生したと言えるのです。

沖縄県宜野座村の前原遺跡で検出されたオキナワウラジロガシの貯蔵穴