くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日(4月はみどりの日)
13:30に苑内のあずまやに集合
15:00頃までの予定、苑内の季節の植物も観察

  • 5月24日 第62回観察会「農事と植物」 辻 誠一郎(歴博)
  • 6月28日 第63回観察会「梅雨とアジサイ」 渡邊 重吉郎(歴博)
  • 7月26日 第64回観察会「ウリの仲間」 藤下 典之(前大阪府立大学)

農事と植物 サクラとのかかわり

  • 執筆者:辻 誠一郎
  • 公開日:2003年5月21日

春から夏へ、各地でさまざまな植物の花が咲きます。やわらかい緑がしだいに増えはじめ、梅雨が近づいているというのに、 一年でもっともみずみずしく、すがすがしい気分にさせてくれる季節です。そして、田畑にも新しい芽が、苗が、葉が、一面の土色の中に萌え出て、周囲の森や 林と同調しています。農事は植物を相手に、そして、植物とともに営まれていることを実感する季節でもあります。

年の始めの1月14・15日頃、農事と深く関係した行事が各地で行われます。その年の豊作を祈願する予祝と呼ばれる行事です。とくに多いのが、白や薄紅 色の餅や団子をちぎったものを木の枝に花のようにつけ、枝もたわわに実った稲穂を模して、豊作を祈願するというものです。この白や薄紅色の餅や団子の花 は、確かに稲穂にも見えますが、春から夏のサクラの花にむしろ似ていて、収穫物を意味する餅や団子と、稲穂に見立てたサクラの花が合体したものと考えるこ とができます。

サクラにはいろいろな種類がありますが、どれも農事と深いかかわりをもってきました。春から夏、多くのサクラは葉が出る前に花だけが咲きます。それがま た、とても華々しく、緑も花も乏しかった冬から、暖かく色とりどりの華やかな季節への移り変わりを告げてくれます。北陸から飛騨にかけて、この地域は浄土 真宗の信者が多いところですが、その宗の中興の祖である蓮如(れんにょ)の命日4月25日頃、シダレザクラなどのサクラが各地で開花します。墓印として植 えられたサクラが大木になっていて、かつてはその満開のもとで一家団欒をすごしたことや、蓮如さんの山行きといって、弁当をもって花見の行楽をしたと言わ れています。これも、単なる花見の宴ではなく、その年の豊作を祈願する予祝行事であったと考えてよいでしょう。

最近、飛騨白川村の自然と民俗を調べるようになり、この地方でも人とサクラが古くから深くかかわってきたことを改めて知るようになりました。そんなな か、合掌造りの集落である荻町の一角に本覚寺があり、その境内と本堂の裏にオオタザクラという変わったサクラがあることを知りました。その名前は、発見者 の太田洋愛(ようない)画伯に因んでいます。発見した日が5月13日だったので、それに合わせて今年の5月12日から14日、白川村を訪れ、見事な開花に 初めて接することができました。変わったサクラというのは、花びらが90枚あるいはそれ以上と異常に多く、花によってはめしべも10数個、おしべも数十個 もあり、どの器官も異常に多数化したいわゆる菊咲という花形のようなのです。花の中につぼみが複数重なっていて、最初の薄紅色の花の中から白色の花が開花 する度咲(どざき)も見られました。このサクラが咲いたらササゲを植えよ、と地元では言い伝えられてきました。開花が種まきや田植えの農事時計であったの です。

身近な農事と植物のかかわりを見直していきたいものです。