くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日(4月はみどりの日)

13:30に苑内のあずまやに集合
15:00頃までの予定、苑内の季節の植物も観察

  • 1月25日(土)  第58回観察会『木の文化史』 山田 昌久(東京都立大学)
  • 2月22日(土)  第59回観察会『酒造りと植物』 辻 誠一郎(歴博)
  • 3月22日(土)  第60回観察会『梅と桃の文化史』 王 敏(東京成徳大学)

スギの話−木材の利用と植生の変化

  • 執筆者:辻 誠一郎

二月が近づいてくると、どうしても気になるのがスギです。近年では、天気予報にスギの開花情報が必ず組み込まれているのは、その日のお天気次第で、花粉の飛ぶ量が大きく変わるからです。スギ花粉症の人口は増える一方で、現代病の一つにもされています。そのため、ずいぶん嫌われ物になっているようですが、日本の歴史、とりわけ人と樹木とのかかわり史を振り返ってみると、たいへん重要な植物であったことがわかります。

スギは日本にしか自生していない日本固有の植物なのです。スギの学名は Cryptomeria japonica で、二つ目の単語(種小名)は「日本のもの」を意味しています。中国南部からベトナムにもよく似た植物が自生していますが、シナスギあるいはカワイスギと呼んで、別種か日本のスギの変種と考えられています。少なくとも約二百万年前までの温暖な気候に見舞われていた時代では、北半球に広く分布していたと考えられていますが、今では東アジアの一角に取り残されているのです。そう考えると、世界でも貴重な植物だと言えるのです。

正月前後にはいろいろな年中行事が繰り広げられます。行事には宴会が付き物ですが、その時に使われた箸(はし)のほとんどがスギの木材であったというおもしろい記録があります。中世都市鎌倉では、各所で遺跡の発掘調査が続けられていますが、しばしば宴会で使われた箸など木製品がまとまって出土することがあります。それらの樹種を調べると、ほとんどがスギを用いていることがわかってきたのです。スギが箸や日用の品々の材料にふんだんに使われている事例は多くはありません。そこで、鎌倉一帯の森林の歴史を調べてみると、鎌倉幕府が開かれるとともに、それまでのカシ類からなる照葉樹林やスギ林が衰退し、北条氏による都市の開発によって一気にマツの二次林に変化したことがわかってきました。都市の開発だけでなく、資源として周辺の照葉樹林やスギ林をものすごい勢いで伐採し、多様な目的に利用していったのです。

関東平野で、鎌倉ほどスギ林がうっそうとしていた場所はほかにはありませんでした。最も近いところでは、御殿場から伊豆一帯に規模の大きなスギ林がありました。著名な弥生時代の登呂遺跡や山木遺跡では、日用品や水田の矢板などスギを用いた木製品が大量に見つかっています。スギという針葉樹は、集落や都市をつくり、維持していくための重要な要素の一つだったかも知れない、と思えてくるのです。