くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日(13:30 ~ )

  • 3月23日  第48回『春の山菜』辻 誠一郎(国立歴史民俗博物館)
  • 4月29日  第49回『花の文化史』佐原 真(国立歴史民俗博物館前館長)
    〔みどりの日:この日は入苑料が無料〕

春の山菜

  • 執筆者:辻 誠一郎
  • 公開日:2002年3月18日

雪に閉ざされていた北国では、植物たちの芽吹きが春を告げ、新鮮な気持ちにしてくれます。3月の中・下旬にもなれば、市場には青々とした山菜があふれま す。今年は雪が少なく、温かい日が続いているので、例年より早く山菜の芽吹きが始まっています。

今では、山菜ブームや健康食ブームと言われて、都会のスーパーマーケットでもタラの芽やフキノトウなどたくさんの山菜が売られるようになりました。しか し山菜は、地域によって種類に違いはあっても、かつては、この季節のごくふつうな食べ物として市場をにぎわしていました。まだ土の中に埋もれている筍(た けのこ)を掘り起こして、筍とワカメの煮物を食べたこと、竹やぶの縁に群生するミツバの、野趣あふれるさわやかな香りが漂うお浸しや汁を食べたことなど、 関西の田舎育ちの私には、この頃のごく当たり前な食事が思い出されます。

かつて山菜採りは、この季節の新鮮な食材を集めるというだけのものではありませんでした。乾物や塩漬け、醤油漬けといった保存食を蓄えるための重要な作 業で、年中行事の一つになっていたといってもよいのです。北海道やサハリンでは、アイヌのことばで「キト」と呼ぶギョウジャニンニク(アイヌネギとも呼 ぶ)を生で食べたり、汁に入れました。弱った体の滋養強壮に、病の治療にもとてもよいとされました。同時に、少し大きめになった葉・茎を大量に収穫し、細 かく刻んで乾燥したものを保存して、植物食料の少ない冬に備えました。葉・茎を二つ切りにして、醤油に漬け込んだ保存食を北海道の市場では今でも見ること ができます。私は、サハリンで、夏から秋、カラフトマスやサケと一緒にいつも塩漬けの「キト」をよく食べさせてもらいました。夏でもさほど暑くないサハリ ンでは、体を温めるのにとても効果的でした。

東北地方で山菜の王様と言えば、それはやはりゼンマイです。新潟県と山形県の境にある朝日山地などでは、山村の重要な収入源にもなっていました。縄文時 代の遺跡でも有名になった奥三面村は、今はダムの底に眠っていますが、かつては、ゼンマイの大きな産地でした。この季節になると、およそ一ヵ月の間、家族 みんなで遠く離れた「ゼンマイ小屋」に泊り込んで働きました。小・中学校も十日間は「ゼンマイ休校」となり、子供たちも一緒に働いたのです。ゼンマイはそ の日のうちにゆで、よくもんでから日当たりのよいところでむしろに広げて乾燥させました。重労働であったと言われています。

山菜と言えば、新鮮さだけが求められがちですが、日本人の民俗の歴史を読み解くかぎがかくされているように思われます。単に食の情報としてだけでなく、 歴史をひもとく資料として見直してみてはいかがでしょう。