くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日(13:30 ~ )

8月25日(土)第41回くらしの植物苑観察会
『歴史の中のワタとその仲間』
ワタの花の季節、ムクゲやアオイなど仲間の歴史と特徴
辻 誠一郎(国立歴史民俗博物館)

ワタとその仲間

  • 執筆者:辻 誠一郎
  • 公開日:2001年8月15日

繊維の王者といえば、ワタから作る木綿。今でも世界の繊維生産高の約50パーセントを木綿が占めています。木綿の全生産高の約3分の1を中国が占め、世 界最大の生産地になっています。

日常わたしたちは「ワタ」と呼び習わしていますが、この仲間は世界に約20種ほど知られているので、仲間の総称と考えておいたほうがいいのです。この仲 間は植物の分類では「ワタ属」としてまとめられています。ラテン語では Gossypium、ゴシッピウムと読んでください。ラテン語の綿の古名がそのまま学名になっています。

世界で栽培されているワタ属には二つの大きな系統があります。一つはアフリカからインドに伝播し、そこで多様な栽培種が作られたとされる「アジアワ タ」、もう一つは新大陸の中・南米にもともとあったと考えられるものとアフリカから伝播したものが交雑してできた「ペルーワタ」と呼ばれているものです。 染色体の研究から、アフリカに起源するものはAゲノムワタ、中・南米にもともとあったと考えられるものはDゲノムワタ、そして二つが交雑したものはADゲ ノムワタとも呼ばれています。Aゲノムワタは2倍体ですが、ADゲノムワタはその倍の染色体をもつ4倍体なのです。

日本には延暦18(799)年に三河の国に漂着した天竺人によって種子が伝えられたと『続日本紀』にありますが、栽培されていたという記録は室町時代か ら散見されるようになります。江戸時代には広く栽培されるようになり、重要な農作物になっていたことは多くの史料から知ることができます。史料とともに、 花にできた花粉の遺体が各地の堆積物から見つかっており、江戸時代では西日本を中心に広く栽培されていたことがわかってきました。

日本で栽培されてきたワタは「アジアワタ」の系統です。「アジアワタ」は、インドを中心に栽培されるキダチワタと、アラビア半島北部から中近東を中心と するシロバナワタに大きく分けられます。日本のワタは、キダチワタから作られた一年生のワタが中国に伝播し、そこで品種改良されたナンキンワタの系統と考 えられています。すなわち中国からもたらされた系統ということになります。

一方、「ペルーワタ」の系統からはカイトウメンやリクチメンといった一年生のワタが作りだされました。これらは綿毛が長くて細く、「アジアワタ」より良 質なため、世界各地で広く栽培されるようになりました。アフリカ北部で現在も栽培されるエジプトワタは、18世紀にアフリカにもたらされたカイトウメンが 改良されたものなのです。