くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日(13:30 ~ )

1月 27日(土)第34回くらしの植物苑観察会 
「常緑樹・針葉樹」 
講師:辻 誠一郎(国立歴史民俗博物館)

くらしの中の貯蔵

  • 執筆者:辻 誠一郎
  • 公開日:2000年12月18日

冬は花も実も少ない季節です。大半が温帯に位置する日本では、ほとんどの植物は秋に実をつけます。だから秋は収穫の季節です。収穫の季節では、「くだも の」や「いも」で食卓はにぎわいますが、この季節にすべて食べつくしてしまうわけではありません。縄文時代から、すでに収穫物を貯蔵することがふつうに行 われていたことが、遺跡の調査から明らかになっています。食料の乏しい冬を生き抜いていくために、季節のリズムを知るだけでなく、貯蔵という保存の方法を 開発していったのです。

一口に保存といっても、乾燥させて乾物にしたり、発酵させて漬物や液体にしたりと、たいへん変化に富んでいます。わたしたちの日常生活を見ても、実にさ まざまな食べ物・飲み物があることに気づきます。お茶やコーヒーもそれに含められるといってもいいでしょう。

縄文時代のちょっとおもしろい事例を見てみましょう。青森市の三内丸山(さんないまるやま)遺跡では、今からおよそ6千年も前の縄文時代の前期の地層か ら、果実や種子だけからなる厚さ5㎝の密集層が見つかりました。ニワトコの仲間が大半を占めていましたが、サルナシやマタタビ、ヤマブドウ、ヤマグワの仲 間も含まれていました。大量のショウジョウバエの遺体が見つかったので、これは酒のしぼりかすではないかと考えられました。同じ頃、少し南の秋田県大館市 の池内(いけない)遺跡の同じ時代の地層からも、同じ組み合わせの果実と種子だけからなる密集層が見つかりました。今度は、 1~ 2リットルくらいの量がお よそ十個、馬ふんのような塊(かたまり)で出てきたのです。しかも、塊の周囲が細かい植物性の繊維でおおわれていたのです。粗い網に細かい繊維をしきつめ て、液体をしぼったかすであることがよく分かります。

ところで、果実や種子だけからなる密集層の組成は、初夏から秋と実のなる季節が違う植物がミックスされているのです。これは、収穫した果実を乾燥して貯 蔵しておいたのを、利用するときにミックスして利用したことを思わせます。池内遺跡の場合には、ヤマグワやヤマブドウの仲間が大半を占める塊まで見つかり ました。これは、場合によって果実の種類の配分を変えていたことを示しています。適当に配分を変えていたのでしょうか。飲む人の好みで配分を変えていたの でしょうか。わくわくしてくる話です。

この事例は、収穫した果実を乾燥して貯蔵していたこと、必要なときにそれらを配合して酒造りをしていたことを示してくれる重要な証拠です。

ヨーロッパでは、果実を酒に利用することが今でも盛んです。果実酒やリキュールの類がものすごく多いのです。これは冬の栄養補給に役立てられてきたのが 原型だと考えられています。