くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日(13:30 ~ )

7月 2 2日(土)第 28回くらしの植物苑観察会 
「伝統の植物 2 朝顔」 
講師:渡邊重吉郎(国立歴史民俗博物館)

木とくらし 1 江戸時代の木材の利用

  • 公開日:2000年6月24日

縄文時代以来、日本は木材の利用が著しく多いところです。建築材に木材が使われてきたために、ヨーロッパのように中世・近世の都市や建物がそのまま残る ことはありませんでした。江戸の遺跡を発掘してみると、水路や建物の礎石だけが地下に保存されているのです。近年、ビルディングの立て替え工事や地下鉄施 設工事が相次ぎ、江戸城外堀や溜池など水辺の遺跡が調査されました。その結果、これまでに分からなかった江戸での木材消費の様子が少しずつ分かるように なってきました。

江戸でもっとも消費されていた木材はヒノキでした。1650年、江戸市中では、スギの使用禁止とともにヒノキの利用を促す記録があります。関東近辺で は、鎌倉幕府が開かれるとスギが大量に利用されることになり、それ以降も、建築材から土木工事、用具材まで、さらに箸までもがほとんどスギで占められるほ どスギがメジャーな木材でした。おそらく、スギ使用禁止の背景には、スギの枯渇もあったのではないでしょうか。

ヒノキだけではありませんでした。さまざまな針葉樹があらゆる用材に利用されるようになります。モミの仲間、カラマツの仲間、トウヒの仲間、アカマツ、 クロマツ、サワラ、コウヤマキ、トガサワラなど。もちろんスギも含まれます。ヒノキやモミの仲間などは、曲げ物や桶に多量に利用されましたが、木材の消費 量を少なくして、大量の容器となることから、無駄なく合理的に木材が利用されたことが分かります。コウヤマキやトガサワラは、江戸周辺はもとより関東一円 にもなかった樹種です。トガサワラは紀州や四国にしか分布していませんでした。そんな珍しい樹種なのに、直径 1m以上に及ぶ大木が江戸に運送され、木樋に も使用されていました。コウヤマキもトガサワラも水に強い性質をもっているのです。

江戸時代の中頃、1700年前後に関東一円にわたって森林が大きく変化します。アカマツの林やコナラ・クヌギなどの雑木林が広大な関東平野に成立するよ うになったのです。これは人々が植林をしたり、二次林をうまく維持管理したために作られたと考えられています。しかし、大量消費された木材は、関東一円の 雑木林にはほとんどありませんでした。土木工事に利用されたアカマツくらいのものでしょう。ということは、ヒノキなど大半の針葉樹は遠方から江戸に持ち込 まれたのです。

もちろん広葉樹も利用されました。おもしろいことに、縄文時代や古代・中世では建築材など幅広く大量に消費されていたクリが、江戸では下駄と杭にしか使 用されていないのです。おそらく近郊の山村ではクリは野放しにすくすくと成長していたのではないかと思われます。明治時代以降、日本列島を縦・横断した鉄 道の施設工事によって、大量の枕木としてクリが利用され、山々からクリが急速に姿を消していきましたが、その原料が江戸時代に温存されていたのかも知れま せん。

遺跡から出土する木材から江戸の木材消費が少し見えてきました。