くらしの植物苑観察会

毎月第4土曜日(13:30 ~ )

『城山を観る』 
「講師:中川 重年(神奈川県森林研究所) 
2月 26日(土)くらしの植物苑観察会
13:30~ くらしの植物苑

蒲公英 たんぽぽ

  • 公開日:2000年2月20日

タンポポは、だれでも知っている人里植物です。キク科タンポポ属で、おもに北半球の温帯から寒帯に広く分布してい ます。日本には約 10種が自生し、野生種の中でもカントウタンポポ・カンサイタンポポ・トウカイタンポポは原始的な種です。近年は帰化種のセイヨウタンポ ポやアカミタンポポが分布を拡大しています。花は大部分が黄色。白色・淡黄色・橙色・紫色・桃色などの野生種も少数ながらあります。大形の頭花(頭状花 状)をつけるので、園芸的価値は高く、日本ではかつて多くの園芸品種が栽培されていました。江戸時代中期~末期には愛好家による「連」もありました。天保 1 2( 184 1)年に『蒲公英銘鑑』(たんぽぽめいかん)が出版されています。そのなかに筒咲・満月・折鶴・紅筆・ふきつめなどの園芸品種名が記録され、 昭和 10年代まで 200を超す品種が継承されましたが、現在はそのほとんどが失われ“幻の園芸植物”となってしまいました。

タンポポの名前は、「田菜ほほ」の転化で「ほほ」は白い冠毛という説と、「たんぽ穂」の意味と「たん ぽ」は綿をまるめて布・革で包んだもの、という 2説が過去にありました。現在では、タンポポの頭花を鼓に見立てて「たん」は鼓の音、「ぽぽ」はその共鳴音 とする柳田国男の説が有力です。有用植物として、タンポポの利用の歴史は古く、東北地方では昔から「ふじな」・「たな」と呼ばれ、野菜の少ない春先に利用 されていました。現今の食材として、フランス料理に白花種が用いられています。日本最古の本草書『本草和名』(9 18)には「蒲公草」という漢字で書かれ ています。貝原益軒の『菜譜』( 1704)・宮崎安貞の『農業全書』( 1697)には、ともに「ふじな」「たな」という野菜の一種とされて、『和漢三才図 会』(わかんさんさいずえ、 17 13)には柔滑菜(じゅうかつさい)の部に入って、野菜・薬草として重要視されていました。

大和言葉の「たんぽぽ」の呼び名に、漢字の「蒲公英」を最初に当てたのは、寛文 1 1( 167 1)年の 『閲甫食物本草』(えつほしょくもつほんぞう)です。タンポポは、初め生花の材料に用いました(水上げが悪い)。華道の世界で観賞対象として注目され、華 道古書の『掖入花伝書』(なげいれかでんしょ、 1684)が初出で、他に『立花秘伝抄』(りっかひでんしょう)・『立花便覧』(りっかべんらん)・『古今 茶道全書』(ここんちゃどうぜんしょ、 1693)の「時節の花の頃」があります。